2015年4月2日木曜日

村上春樹氏から学ぶ「人を怒らせない言い回し」

村上春樹氏の本は「ノルウェイの森」と「1Q84」は読んだことがあるのだが、それらを何度か読んでも、
私個人の印象は、猿みたいに節操無くやってる奴らばっかり出てきて何なのこの小説・・というものだった。

ということでさして彼の小説には興味がなかったのだが、彼が期間限定でやっているサイト
「村上さんのところ」を読んでいると、やっぱり人気作家だけあってこれがかなり面白い。

特に読者からの質問に答えるコーナーだ。結構適当に答えているゆるい感じの回答も多いのだけど、
ときどき、激昂しているような読者に対して、彼ら彼女らを怒らせることなく、下手に出ながらも自分の
意見をスッと伝えるような言い回しはすごいなと思う。

この「人を怒らせない言い回し」に感心することが多々あったので、簡単にではあるが、いくつかまとめて
おこうかと思う。

アーティストの政治的発言を考える 村上さんにおりいって質問・相談したいこと
政治に興味が無い人種のはずのアーティストが政治的発言をすると萎えるという読者からの質問に、
「アーティストというのはもともと政治に興味がない人種であって」というあなたの意見は、いささか一面的に過ぎるのではないかと僕は(僭越ながら)思います。そういう人もいるでしょうが、そうじゃない人もいます。アメリカの歌手や俳優の多くは政治色を鮮明にしていますよね。アーティストもやはり社会の中に生きている人間ですし、彼らの作品と彼らの政治的姿勢が切り離せないという場合も多々あります。人それぞれです。
と、この「いささか一面的に過ぎるのではないかと僕は(僭越ながら)思います」と相手が不快に感じない
ような下手に出る表現で伝えている。これ、なかなかできることではないと私は思う。大体ツイッターで
炎上させている有名人とか、こんな表現絶対しないからね。

次の例。
その告白は不法侵入にしか思えません 村上さんにおりいって質問・相談したいこと
これまたひどい質問だ・・。好きでもない人から告白されると決められた自治領に不法侵入されたような
非常に不快な気持ちになるという女性からの質問には、
僕にはあまりそういう経験はありませんが、でも告白されちゃう人にとっては、きっとずいぶん面倒なことなんでしょうね。「ったくもう、うざったいなあ」みたいに。でも告白をする方とすれば、告白するのってなかなか大変なんです。あれこれ迷った末に、勇気を出して思い切って告白するんです。あなたがムカッとする気持ちもわかりますが、相手の人の大変さも少しくらいわかってあげてください。なんか、つい男の立場になってしまいます。すみません。
と、これまた女性が不快になる気持ちにも理解を示しながらも、男だって告白するのは相当な
勇気がいるんだよと伝えた上で、「なんか、つい男の立場になってしまいます。すみません。」
と謝って下手に出て、相手を怒らせないようなソフトな表現にしている。これもなかなかできないと思う。
いやー、私は無理だな。私ならガン切れだね。お前つまり「ただしイケメンに限る」ってことかよ!
ブサメンは告白する権利すらないっていうのかよ!大体好きな人から無理やり友達の線引されて
接される不快感を理解してるのか!とか言いたくなるもの。でもね、そこでガン切れしてそれを言って
しまうと、相手に話を聞いてもらえないし、相手が変わってくれる可能性がなくなっちゃうんだよね。

ってことに、村上春樹氏の回答を見ていて気が付いたよ。私やツイッター炎上有名人の書き方じゃ、
ストレス発散にはなっても相手には伝わらないんだ、実際問題。でも村上春樹氏の言い回しなら
こちらの言い分が相手に伝わる可能性はより高い。ストレス発散か伝えるのか、そこはちゃんと
意識して言い回しを考えたほうがいいんだろうね。

もう一例くらい。
性描写がどうしても嫌です 村上さんにおりいって質問・相談したいこと
これはねぇ、相談者に完全同意だね。あの小説に登場する節操のないヤリチン、ヤリマン野郎たちは
どうにかならんのかと、読んでて不快なんだよと、マジで思うわ。で、村上春樹氏の回答。
性描写、あなたにとって読みづらいかもしれませんが、僕の書く小説からはどうしてもはずせないものです。僕もとくに好きで書いているのではありません。話を面白くするために書いているわけでもありません。物語にとって必要だから書いているんです。ある意味ではあなたの心のある部分をこじ開けようとしています。申し訳ないとは思うのですが、どうかそのへんをご理解ください。
とまぁ、理解はできないけど、この回答でわかったのは、彼は別に小説が売れるようにするために
性描写をしているわけではないということのようだ。心理描写として必要だから書いているとのこと。
これも「あなたにとって読みづらいかもしれませんが」とか「僕もとくに好きで書いているのではありません」
っていうのは、性描写が苦手な人に自分の考えを伝えるために、重要な枕詞になっているなと思う。

と、他にも探せばいくらでも例は見つかると思うんだけど、村上春樹氏の回答を読んでいて、
「人を怒らせない言い回し」というのは何度も何度も感じた部分なので、ちょっと記事にしてみた。

前にこんな質問も村上春樹氏に届いていたけど、
不快なメールは来ないんですか? 村上さんにおりいって質問・相談したいこと
そこで彼は「幸いなことに、このサイトにはいわゆる「不快なメール」はほとんど来ません。」と回答を
しているのだけど、いや、そうではなくて、言い回しが絶妙だからエスカレートしたメールが来ない
ということなんじゃないかなと思うね。あっ、この回答でも書いているな。
たとえきついメールがきたとしても、僕はとくに反論はしませんので(自分の意見は少しくらいは穏やかに述べますが)、論争になることもありません。それから言葉遣いには僕なりにかなり気をつけています(たまにすべることもあるかもしれませんが)。
ということで、やっぱりそうか!言葉遣いにかなり気を付けているのね!そうだよね。私やツイッター
炎上芸人のように感情とキーボードが直結しているような脳筋野郎には書けない文章だもの。
そっか、意識してやっているのか。なるほどね。

この質問でも意識してやっていると回答しているな。
もっと他の言い方があったかなぁ 村上さんにおりいって質問・相談したいこと
>村上さんって意地悪な質問や報道を受けているのに、いつもクールで、的を得ていて、嫌味がなくて、素敵ですよね! 
>返しのコツがあったら教えてください。

僕はプロです。ある程度クールでなくてはプロにはなれません。相手が力を入れてきたら、まずすっと受け入れて、その力を吸収してしまうのがプロの技です。そこからあらためて話を始めるんです。練習してみてください。力に力で正面からこたえていたら、とても身がもちませんよ。 

ということで、まぁ優先順位が
自分の意見を表明してストレス発散>相手に伝わる
ならキーボード感情直結モードでよいのだろうけど、
相手に伝わる>自分の意見を表明してストレス発散
にする必要が出てきた場合には、上記で挙げたような村上春樹氏の「人を怒らせない言い回し」は
かなり意識して書くのがよいと思う、というのが結論。


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